2012年の「カネミ油症被害者救済法」が成立後、家族内で認定結果が分かれないように診断基準が見直され、同居家族が認定されるようになったことは大きな前進でした。ただし、たとえば広島県内には、職場の食堂で汚染油を摂取した人が症状を訴えていても、「同居家族」とは認められないという例があります。また、1969年以降に生まれた認定患者の家族(子や孫)は、同居家族認定の対象には含まれず、認定されるためには油症検診を受けなければなりません。
原則年に2回開催されている三者協議では、このような点を含め、被害者団体から問題を提起して制度やその運用について改善を求めています。しかし、議論は遅々として進まず、妥当性を欠く診断基準の見直しも進んでいません。
2019年、膠着状態にあった三者協議を前進させるには、被害者側が意見を統一して交渉に当たる必要があると、全国の13団体(現在は14団体)が結束してカネミ油症被害者全国連絡会を設立しました。以降、被害者団体から示される論点はより明確になったものの、議論のスピードアップにはつながっていません。未認定患者を含む被害者が高齢化していくなかで、焦りや失望を感じているという声が患者団体から聞かれています。
公害の被害を補償するときの基本的な考え方は、加害企業が被害によって発生した費用を負担するという「汚染者負担の原則」(Polluter Pays Principle; 略称PPP)です。しかし、カネミ倉庫のように資力が乏しい場合、この原則をそのまま適用すると、被害者に対して十分な補償ができなくなってしまいます。
カネミ倉庫は、過去の訴訟で被害者に対して賠償金を支払うよう命じられており、その債務は原告1人あたり約500万円にのぼります。しかし、カネミ倉庫が債務を全額支払うと倒産するおそれがあるので、被害者は医療費の支給を優先し、賠償金の未払いを渋々受け入れています。さらに、一部の認定患者はカネミ倉庫の厳しい経営状態に配慮し、医療費の請求をできるだけ抑制しようとする姿勢まで見られます。
国はカネミ倉庫に対し、政府米の保管業務を委託して同社の経営を支え、補償体制を維持してきました。汚染者負担の原則に立った補償体制を維持するために考えた苦肉の策なのでしょうが、国が加害企業を救済しているように見え、不健全に映ります。
→補足情報|仮払金返還問題・公害など被害者への補償内容
カネミ油症の被害者の間では、汚染油を直接食べていない子や孫にも健康被害が確実に及んでいると言われてきました。しかし、ダイオキシン類の血中濃度を重視する診断基準の壁に阻まれ、自覚症状があってもほとんど認定されていません。
そこで、カネミ油症被害者支援センター(YSC)は、被害者団体の協力を得て、認定患者の子や孫を対象に、健康状態を明らかにするアンケート調査を独自に実施しました。
2020年12月、YSCは49人分の調査結果から、①次世代被害者は一般市民よりも、病気やけが等の自覚症状のある人の割合が高いこと、②次世代被害者と認定被害者との症状は多くが一致していることを公表しました。さらに、カネミ油症被害者全国連絡会とYSCは、次世代被害者の救済に向けた要望書を厚生労働大臣宛てに提出しました。この要望に応えるかたちで、国による次世代の健康実態調査が始まったのです。
→「「患者2世」唇からのどまで裂け目 「怒り込めて受診」」(朝日新聞社YouTubeチャンネル、2019年11月16日)
PCBは、熱や光、化学薬品に強く、電気を通しにくいなどの性質を持ち、その利便性から「夢の化学物質」と呼ばれたこともあります。しかし、毒性が強く分解されにくいPCBの環境汚染が問題となり、1972年に行政指導により製造が中止され、1974年には法律上も製造・輸入・使用が禁止されました。
2001年に「PCB廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」が成立し、国の主導により高濃度のPCB処理はほぼ終わりました。現在は、低濃度PCBを含む機器の処理に重点が移っていますが、機器の数が膨大にあるため、処理方法やコストなどが課題となっています。
国内で製造されたPCBのうち、じつに96%がカネカ高砂工業所で製造されたものです。カネカは、自社で製造したPCBの一部を焼却処理したものの、全国に出回っているPCBの処理に関しては負担していません。処理施設の建設から実際の廃PCBの処理まで、ほぼ国の予算でまかなわれています。国はPCB処理に莫大な予算を投じているのに対し、カネミ油症被害者の身体に入り込んだPCBの処理対策は無いに等しい状況です。今日、マイクロプラスチックによる海洋汚染が世界的に大きな問題になっていますが、PCBは油と親和性が高いため、石油から作られたマイクロプラスチックの表面に吸着され、さらに生物濃縮されます。
カネカは、1987年の和解に応じた原告には見舞金を支払いましたが、その後は一切の補償に応じておらず、三者協議の場にも参加していません。
考えるためのウェブ情報
いま何が問題か
進まない三者協議、見直されない診断基準
2012年の「カネミ油症被害者救済法」が成立後、家族内で認定結果が分かれないように診断基準が見直され、同居家族が認定されるようになったことは大きな前進でした。ただし、たとえば広島県内には、職場の食堂で汚染油を摂取した人が症状を訴えていても、「同居家族」とは認められないという例があります。また、1969年以降に生まれた認定患者の家族(子や孫)は、同居家族認定の対象には含まれず、認定されるためには油症検診を受けなければなりません。
原則年に2回開催されている三者協議では、このような点を含め、被害者団体から問題を提起して制度やその運用について改善を求めています。しかし、議論は遅々として進まず、妥当性を欠く診断基準の見直しも進んでいません。
2019年、膠着状態にあった三者協議を前進させるには、被害者側が意見を統一して交渉に当たる必要があると、全国の13団体(現在は14団体)が結束してカネミ油症被害者全国連絡会を設立しました。以降、被害者団体から示される論点はより明確になったものの、議論のスピードアップにはつながっていません。未認定患者を含む被害者が高齢化していくなかで、焦りや失望を感じているという声が患者団体から聞かれています。
脆弱な補償体制
公害の被害を補償するときの基本的な考え方は、加害企業が被害によって発生した費用を負担するという「汚染者負担の原則」(Polluter Pays Principle; 略称PPP)です。しかし、カネミ倉庫のように資力が乏しい場合、この原則をそのまま適用すると、被害者に対して十分な補償ができなくなってしまいます。
カネミ倉庫は、過去の訴訟で被害者に対して賠償金を支払うよう命じられており、その債務は原告1人あたり約500万円にのぼります。しかし、カネミ倉庫が債務を全額支払うと倒産するおそれがあるので、被害者は医療費の支給を優先し、賠償金の未払いを渋々受け入れています。さらに、一部の認定患者はカネミ倉庫の厳しい経営状態に配慮し、医療費の請求をできるだけ抑制しようとする姿勢まで見られます。
国はカネミ倉庫に対し、政府米の保管業務を委託して同社の経営を支え、補償体制を維持してきました。汚染者負担の原則に立った補償体制を維持するために考えた苦肉の策なのでしょうが、国が加
害企業を救済しているように見え、不健全に映ります。
→補足情報|仮払金返還問題・公害など被害者への補償内容
次世代被害問題
カネミ油症の被害者の間では、汚染油を直接食べていない子や孫にも健康被害が確実に及んでいると言われてきました。しかし、ダイオキシン類の血中濃度を重視する診断基準の壁に阻まれ、自覚症状があってもほとんど認定されていません。
そこで、カネミ油症被害者支援センター(YSC)は、被害者団体の協力を得て、認定患者の子や孫を対象に、健康状態を明らかにするアンケート調査を独自に実施しました。
2020年12月、YSCは49人分の調査結果から、①次世代被害者は一般市民よりも、病気やけが等の自覚症状のある人の割合が高いこと、②次世代被害者と認定被害者との症状は多くが一致していることを公表しました。さらに、カネミ油症被害者全国連絡会とYSCは、次世代被害者の救済に向けた要望書を厚生労働大臣宛てに提出しました。この要望に応えるかたちで、国による次世代の健康実態調査が始まったのです。
→「「患者2世」唇からのどまで裂け目 「怒り込めて受診」」(朝日新聞社YouTubeチャンネル、2019年11月16日)
PCB処理の経過
PCBは、熱や光、化学薬品に強く、電気を通しにくいなどの性質を持ち、その利便性から「夢の化学物質」と呼ばれたこともあります。しかし、毒性が強く分解されにくいPCBの環境汚染が問題となり、1972年に行政指導により製造が中止され、1974年には法律上も製造・輸入・使用が禁止されました。
2001年に「PCB廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」が成立し、国の主導により高濃度のPCB処理はほぼ終わりました。現在は、低濃度PCBを含む機器の処理に重点が移っていますが、機器の数が膨大にあるため、処理方法やコストなどが課題となっています。
国内で製造されたPCBのうち、じつに96%がカネカ高砂工業所で製造されたものです。カネカは、自社で製造したPCBの一部を焼却処理したものの、全国に出回っているPCBの処理に関しては負担していません。処理施設の建設から実際の廃PCBの処理まで、ほぼ国の予算でまかなわれています。国はPCB処理に莫大な予算を投じているのに対し、カネミ油症被害者の身体に入り込んだPCBの処理対策は無いに等しい状況です。今日、マイクロプラスチックによる海洋汚染が世界的に大きな問題になっていますが、PCBは油と親和性が高いため、石油から作られたマイクロプラスチックの表面に吸着され、さらに生物濃縮されます。
カネカは、1987年の和解に応じた原告には見舞金を支払いましたが、その後は一切の補償に応じておらず、三者協議の場にも参加していません。
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