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問題の解決に向けて

法律を活かした救済策のアップデートを

1)診断基準の見直しを

2012年に成立した「カネミ油症被害者救済法」を活かし、救済策を拡充するために制度を改善していく必要があります。特に、被害者救済にとって決定的に重要な診断基準については、見直しに向けた具体的な検討を進め、「未認定問題」の解決に当たることが求められます。

以前から、ダイオキシン類の血中濃度を重視する診断基準は、被害者を救済するためではなく切り捨てるためのものだと批判されてきました。次世代被害の実態調査を通して、現行の診断基準の限界がさらに明白になっており、国は早急に見直しに向けて動き出すべきです。そのためには、まず、完全にブラックボックスの中でおこなわれている患者認定プロセスの透明化が望まれます。

そのうえで、参考になるのが台湾油症の例です。台湾中西部の油脂工場が製造した米ぬか油にPCBが混入し、この汚染油を食べた視覚障害の子どもなど2,000人以上が被害を受けました。原因企業は倒産しましたが、国は患者登録制度を設け、疫学調査も実施しました。台湾油症の場合、母親が油症1世である場合、2世の子どもも油症患者と定義され、救済対象となりました。カネミ油症の次世代被害者については、台湾油症のように認定患者の子や孫を、救済の対象に含めることはできないものでしょうか。

2)未認定患者の積極的な救済を

長崎県五島列島にある奈留島は、カネミ油症の被害者が多く発生しました。その中でも、およそ4人に1人が身体障害者手帳を持っている地区があります(元民生委員の独自調査による)。カネミ油症問題のこれからしかし、この地区にはカネミ油症の認定患者はいません。その理由として、すでに述べた妥当性を欠く診断基準だけでなく、カネミ油症との関わりを隠す住民が多いこともあるようです。事件発生から50年が経過してもなお、医療費をもらう認定患者へのやっかみ、いわれなき差別や偏見などへの恐れなどから、油症と疑われるような自覚症状があっても患者認定を求めない傾向があります。被害者が亡くなるのを待っているかのように、国がこうした状況を放置することは許しがたいです。

救済法の基本理念として、油症患者の人権が尊重され、患者だからといって差別されないように配慮することがあります。国は未認定患者を積極的に救済するために、特にカネミ油症の多発地域では、いまからでも事件当時の住民やその子や孫などを対象に健康調査を実施すべきだと思います。


3)開かれた協議の場を

法律の立て付けでは、救済策の拡充は三者協議に委ねられていますが、この会議にはオブザーバーの参加が認められていないので、被害者は原因企業や国の主張を、弁護士や支援者などとともに聞くことができません。また、メディアの取材も著しく制限されており、被害者にとっては不利な環境の中で協議することを強いられています。このような会議のあり方は、被害者に寄り添って救済を進めていくという法の趣旨に照らせば不適切であり、もっと開かれたかたちへと早急に変える必要があります。


企業の社会的責任を問う~カネカも被害者救済に参加を

1968年のカネミ油症事件をきっかけにできた法律に、1995年に施行された製造物責任法(PL法)があります。法律が過去の事件にさかのぼって適用されることはありませんが、この法の現在の考え方からすれば、カネカはPCBが食品に混入するリスクを考慮し、カネミ倉庫に対して、米ぬか油を出荷する前に最終確認するように指示・警告すべきだったと思います。

カネカについては、1987年に当時裁判で争っていた被害者との間に和解が成立し、PCB製造者には責任がないこと、原告は一切の請求や要求などをしないことを確認しています。このため、カネミ油症は和解したから決着済みとカネカは主張し続けています。しかし、和解の内容は当事者のみに及ぶものであって、和解に加わっていない被害者、特に次世代の方には関係ありません。

カネミ油症の被害は、世代を超えて拡大しています。和解当時、半世紀先の未来にいたるまで被害が継続し、広がっていくことをだれも想像できなかったと思います。いまからカネカに対して法的な責任を問うことは難しいでしょうが、カネミ油症の原因物質であるPCBの製造者として社会的責任を果たしてほしいと思います。

2017年以降、油症の原因となったPCBを製造したカネカの工業所がある高砂市内で、被害者や支援者などが集う集会(高砂集会)を毎年開催しています。毎回、カネカには集会への参加を呼びかけていますが、これまで返答はありません。カネカは、大手総合化学メーカーとして、「カガクでネガイをカナエル会社」とCMでうたっています。ぜひ、その技術力を生かし、カネミ油症の治療法を開発するなど、油症をめぐる諸問題の解決に率先して取り組んでほしいものです。


カネミ油症問題のこれから被害者救済のための新たな枠組み~基金の提案

加害者が被害者を救済すべきことは当然であるとして、カネミ油症のように、加害企業に十分な資力がない場合は、「汚染者負担の原則」を遵守しようとすると、それは被害者よりも加害者を保護することになります。この不合理な状況を乗り越えるためには、被害者救済のための新たな枠組みを考える必要があります。

カネミ油症に詳しい環境社会学者の宇田和子さん(明治大学)は、食品公害被害の救済に向けた基金制度を提案しています。これは、食品の製造に携わる事業者は、食中毒等の事故を引き起こす可能性を潜在的に抱えていることから、そうしたリスクに備えるために、生産量などに応じて基金への拠出を求めるというものです。かりに食品衛生法で営業許可を受けている約240万の施設に対して、年間1,000円を一律に拠出させるとした場合、約24億円を毎年積み立てることができます。カネミ倉庫が油症患者に毎年支払っている医療費が約1億円ですから、この金額は被害者救済を大きく進められる規模であることがわかります。

カネミ油症の被害者救済が進まないなかで、「食品公害基金(仮称)」を設立するという構想は魅力的に映ります。この基金が実現すれば、カネミ油症や森永ヒ素ミルク事件といった食品公害の被害者、次世代の被害者、さらに、これから食品公害が発生した場合の未来の被害者も救済できるはずです。

食品公害に遭った被害者の多くは、何の落ち度もないのに突然人生を狂わされました。加害企業の資力によって被害者の救済に差が生まれることがないように、国や食品関連業界には、包括的な救済基金の創設を強く求めます。